「ペール・ギュント」冒頭2024年04月17日

ヘンリク・イプセン『ペール・ギュント』(楠山正雄訳)。


第一幕

    オーセの住居の背戸に近く広葉樹に覆われた傾斜地。一筋の小川が下へと流れている。その流の末に古い水車がかかっている。暑い夏の日の昼。
    ペール・ギュント、二十歳、屈強の男子、坂をおりて来る。その母親オーセ、小柄なきゃしゃ造り、何か腹を立てて小言をいいながら、続いておりて来る。


オーセ  嘘だよ、ペール。
ペール・ギュン  (立ち止まることなしに)ううん、ううん、嘘なんかつくもんか。
オーセ  そんなら誓うか、ほんとうだと。
ペール・ギュン  なんだって誓うのだ。
オーセ  ふん、それ見ろ、誓えまい。てんから嘘にきまっているのだ。
ペール・ギュント  (立ち止まる)だってほんとうだもの――誓えなら誓うよ。
オーセ  (彼と向い合って)全体よくもぬくぬくと恥ずかしそうにもしないなあ。もうまる一週間もうちをあけてよ。それも草取りでいそがしい真っ最中に、ふらふらと遠方まで馴鹿(トナカイ)狩りに行くといって出掛けてしまって、えいやっと戻って来たと思うと、いやもうそぼろな姿で、鉄砲はなくすし、一疋だって獲物はなし――あげくにもって行って、しらじらしい、真っ昼間、とほうもない大猟の嘘話で、おっかさんをだまそうとかかっている。じゃあまあ一体どこでそれに出会ったというのだい。
ペール・ギュント  イェンディンの左手でよ。
オーセ  (嘲るように笑う)おや、そうかい。

(後略)



・追記。
原文は、韻文との事。
驚いたのは、ペールの年齢である。子供の頃読んだ本では「少年」となっていた。まさか「二十歳」とは。

・補足(24日)。
訳本は、1925(大正14)年刊。

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