『坊っちやん 四』より2023年07月01日

(略)
 けちな奴等だ、自分で自分のした事が云へない位なら、てんで仕(し)ないがいゝ。証拠さへ挙がらなければ、しらを切る積りで図太く構へて居やがる。おれだつて中学に居た時分は少しはいたづらもしたもんだ。然(しか)しだれがしたと聞かれた時に、尻込みをする様な卑怯な事は只の一度もなかつた。仕たことは仕たので、仕ないものは仕ないに極(きま)つてる。おれなんぞは、いくら、いたづらをしたつて潔白なものだ。嘘を吐(つ)いて罰を逃げる位なら、始めからいたづらなんかやるものか。いたづらと罰はつきもんだ。罰があるからいたづらも心持ちよく出来る。いたづら丈(だけ)で罰は御免蒙(ごめんかうむ)るなんて下劣な根性がどこの国に流行ると思つてるんだ。金は借りるが、返す事は御免だと云ふ連中はみんな、こんな奴等が卒業してやる仕事に相違ない。全体中学校へ何しに這入つてるんだ。学校へ這入つて、嘘を吐いて、胡魔化して、陰(かげ)でこせこせ生意気な悪(わる)いたづらをして、さうして大きな面(つら)で卒業すれば教育を受けたもんだと癇違(かんちがひ)をして居やがる。離せない雑兵(ざふひやう)だ。
(略)


・註。
繰り返すが、「坊っちやん」と言うタイトル表記は、自筆原稿の指定に依る。

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