ヘラクレスの十二の課役 3 ― 2022年05月07日
(七) ケリネヤ山(さん)の牝鹿(めじか)
ヘラクレスがエウリステウスから課せられた第三の仕事は、アルカヂヤとアカイヤの間にあるケリネヤ山中に出没する牝鹿を生捕(いけど)って来ることであった。この牝鹿は女神アルテミスの神獣(しんじゅう)で、黄金の角と黄銅の蹄(ひづめ)を有(も)っていた。ヘラクレスは一年の間この牝鹿を追い廻して、ギリシャの果(はて)から果を廻(めぐ)り歩き、トラキヤを越えて、北方の闇の国まで踏み込んだが、其処(そこ)から再び引返(ひきかえ)して、終(つい)にラドン河の辺(ほとり)で、その隻脚(かたあし)へ傷をつけて、ようようのことで手捕(てどり)にした。
ヘラクレスはこの鹿を肩に担(かつ)いで、チリンスへ帰って来ると、途中で、女神アルテミスが兄のアポロンと連立(つれだ)って来るのに邂逅(でくわ)した。アルテミスはヘラクレスが自分の愛獣(あいじゅう)に傷をつけたのを見て、その不敬の罪を責めて、獣(けもの)を取戻(とりもど)そうとした。
「決して神威(しんい)を冒(おか)そうの何(なん)のという考えがあって致したことではありません。」とヘラクレスは只管(ひたすら)弁解した。「只(ただ)私がエウリステウスの命令に背く訳にゆかないことは、あなた方も御存知の筈ではありませんか?」
ヘラクレスの謙遜(けんそん)な言訳(いいわけ)を聞いて、女神の心は釈(と)けた。そしてヘラクレスにそのまま愛獣を与えて、その任務(つとめ)を果(はた)させたと伝えられる。
ロビン・フッド 2 ― 2022年05月07日
二、 森を住居に
かれらは、鹿(しか)の皮につつんであるロビンが、逃げ出すなどとは夢にも思わなかった。また、サキソンの木こりたちが、許しもないのに歩きまわるとも思わなかった。
ところが、まっさきに逃げ出したのは、さっき若い木こりにむかって、我慢するようになだめた老人であった。かれは林務官(りんむかん)たちの目をかすめて、靴音(くつおと)を立てぬように逃げ出し、小屋と小屋とのあいだの、細い露路(ろじ)にとびこんで姿を消してしまった。
もう一人の老人は、そんなことをすこしも知らず、仲間(なかま)のほうへ背をむけたまま、あとからきた林務官たちが、徳利(とっくり)をらっぱ飲みしながら話しあっている有様をぼんやりとながめていた。
若い木こりのウィルは、はじめ老人のあとを追って逃げようとしたが、ちらっとそりのほうを見ると、ロビンが目つきで、かれの心の願いをあらわしているのを知った。ウィルは、うなずいてそりのそばに片ひざをつくと、腰の広刃(ひろば)の短刀をぬきとるが早いか、すっすっと、二、三ど短刀を動かして縫目(ぬいめ)の糸を切りさいた。
ロビンは自由になった。かれは弓と矢とをつかむと、そのままわくのあいだからとび出して、ウィルのあとにつづいた。ウィルは、小屋と小屋とのあいだの細い露路にかけこみながら叫んだ。
「ホッブ、ホッブ! おれたちについてこいよ! さ、早く、早く!」
ホッブというのは、さっきから、ぼんやりと酒屋のなかをながめていた老人の木こりの名であった。ウィルの声でかれははじめて気がつき、のっそりむきなおったが、仲間たちの逃げるのを見ておどろいた。
けれど、こまったことには、ウィルの声が、聞かしたくない隊長の耳にもはいった。隊長は、くるりとむきなおってどなりたてた。
「悪党が逃げた! やつらはせっかくの曲者(くせもの)を助けたぞ。それっ、つかまえろ、殺してもかまわん。」
隊長はそう叫びながら、矢を弓にあて、弦(つる)を耳もとまでひいた。
のろまなホッブも、あわててかけ出し、森のなかへ逃げこもうとした。けれど、それよりも早く灰色のがちょうの矢羽根(やばね)が、かれを追いかけて、その首筋に突きささった。かれは前へつんのめり、顔を伏せたまま身動きもしなかった。灰色の矢羽根は、天にむかってまっすぐに突きたったまま、小きざみにふるえていた。
ロビンが、小屋と小屋とのあいだの露路を通りぬけて、小さな裏庭へ出た時、ウィルはむこうのへいをよじのぼるところであった。一番先(いちばんさき)に逃げた老人の木こりの姿は、もう見えなかった。ロビンはその裏庭を急いで横切ると、へいの横木に足をかけて、目(ま)ばたきするほどのあいだに、とびこえてしまった。
へいの外は、広い地面がつづいていて、はるかむこうを老人の木こりが走り、ややへだたってウィルが走っていった。ロビンは、できるだけ早く二人のあとへつづき、二人が隠れようとしている森へ、じぶんも隠れようとして走ったが、森の端までくると、うしろのほうで叫び声のするのを聞いた。ふり返ってみると、五、六人の頭(あたま)がへいの上にあらわれていた。林務官たちが追いかけてきたのであった。けれど、森へはいったらもう大丈夫なので、ロビンはわざとかれらを怒らせるようなことを言ってやった。そして、森の中へおどりこんだ。
すると、ウィルが、すこし先で、かれのくるのを待っていてくれた。
「こっちだ、こっちだ!」
と、かれが叫んだ。
ロビンは、そのあとにつづいて行った。次の瞬間、一生けんめいに小径(こみち)をかけてゆく老人の木こりのうしろ姿が見えた。ウィルとロビンとは、その老人に導かれて走り、やがて沼地をぬけて、堅い地面のところへきた。老人の木こりは、かしの大木の根もとに腰をおろして休んだ。
「ホッブは、どこにいるんだ?」
と、かれは息をきらしながら言った。
「死んだよ、とっつぁん、隊長がホッブの首筋に矢を射あてたんだよ。ホッブはのろかったのさ。」
と、ウィルが答えた。
「ホッブは、いつものろかった。だが、おれたちだって、まごまごしてたら、ホッブとおなじ目にあうんだった。そうだ、ウィル、おまえが短刀に手をかけようとした時にゃ、もうおしまいだと思ったよ。あの隊長は、まったく惨酷なやつだ。」
「とっつぁん、おれがだまっていたのは、とっつぁんにとめられたからだ。なんでもないことで、犬みたいになぐられるのは苦しいよ。」
「そりゃそうだ。以前には地主だったおれたちが、あんなノルマン人に、犬よりもひどく扱われるのだ。だがのう、もうおれたちは村へは顔が出せないぞ。森の中(なか)にかくれているほかはないんだ。見つかったが最後、ノッティンガムのろう屋(や)へ入れられて、政府(おかみ)の命令に従わぬサキソン人の見せしめにされてさ、死刑の綱が首にかかるのを待つだけだぞ。」
その時、ロビンが言った。
「いや、おれの運命は、もっとひどかったかも知れない。もし、きみが勇敢に親切に、縫目を切りはなしてくれなかったらね。おれは、きみにたくさんお礼をいいたい。ほんとにありがたいと思っている。」
ロビンは、ウィルの手を握りしめた。
「そんなこと、なんでもないさ。おれは短刀で、二、三度切っただけだ。だが、きみはどうして、やつらにつかまったんだ?」
ロビンは、じぶんがつかまるまでの話を、こまかに話した。二人は、腹だたしそうにうなずいた。やがて、老人の木こりは、
「さあ、ひとまずのがれたが、もっと安全な草原へゆこう。」
と言って、立ちあがった。
けれど、ロビンは歩き出そうとしなかった。
「おれは、やつらの手につかまっている二人の若者を助けたいんだ。」
すると、ウィルが言った。
「あの二人は森の奥にうろついている謀反人(むほんにん)の仲間だ。その連中と林務官たちのあいだには、はげしいうらみがあって、争っているんだから、惨酷な長官は、たちまちあの二人の首をしめるにきまっている。」
老人の木こりも、その時、口を出した。
「そうだ。あの連中は、ノルマンのむごい政治と、ひどい森の法律のために、家から追い出されたのだ。仕方がないから、今は森にかくれて王さまのしかをとって食べているんだ。だから、つかまったら最後、生命(いのち)はないさ。」
ロビンは叫んだ。
「ノッティンガムへゆく道を、案内してくないかね?」
「わけないことだが、どうしようっていうんだ? たった一人で、王さまの林務官にむかって、なにができるかね?」
と、老人の木こりが言うと、ロビンは、
「べつに成算(せいさん)があるわけじゃないが、うまい機会をねらって助けたいんだ。」
と、答えた。すると、ウィルは、
「よし、おれが案内するよ。とっつぁんは、森にかくれていなよ。また、この大かしの樹の下であうことにしようよ。」
そこで、かれらは別れた。ロビンは、ウィルに案内されて、沼地のうしろを横切って、あたらしい道を進み、老人の木こりは、シャアウッドの森の奥へ、身をかくすためにむかった。
二十分ばかりで、ロビンとウィルとは、さっきかれらが逃げた小さい部落の、ちょうど反対側にある森の小屋の近くまできた。
森の奥からのぞくと、林務官たちが、二人の若者をまんなかにはさんで出かけるところであった。逃げた三人を追いかけるのは、沼地が危険なのであきらめたのである。例のそりは戸口に捨てられ、そのそばには、ホッブが殺された時のままで横たわっていた。
「助けよう! それからしかえしだ!」
ロビンは、小声で言った。ウィルも、うなずいて、その言葉をくり返した。けれど、どうすればいいか、しきりに考えているらしかった。すると、ロビンが言った。
「なあ、ウィル、あいつらが町へゆくのに、ぜひ通る道を教えてくれ。」
ウィルが、それを教えると、ロビンが言った。
「よし、よし。広い野原を通るんだね。そこへ案内してくれよ。先まわりしてたいんだ。」
さっそくウィルは、木(こ)のまを縫うようにして走った。野原へついた時には、林務官たちが今しも野原を通りかかっていた。ロビンは、ウィルを木かげにのこして、大胆(だいたん)にも野原へおどり出て、隊長にむかって叫んだ。
「こら、その若者たちを放してやれ! 放してやらなければ、ためにならぬぞ!」
隊長は、ロビンがたった一人で、戦いをいどんできたのを見ておどろいた。けれど、小(こ)しゃくなと怒って、返事もせずに、急いで弓をとり、矢を放ってきた。矢はロビンの足もとから六十フィート[註:1フィート(foot)は約30.5cm]ばかりはなれた草原につきささった。
すると、こんどはロビンが、強弓の力と、たしかなねらいを示した。すなわち、かれの矢は隊長ののどを射ぬき、隊長を倒してしまった。隊長はその矢をぬきとろうとしてもがいた。林務官たちが、そのおそろしいねらいうちにおどろいて、立ちすくんでいると、ロビンはまたもや大声で叫んだ。
「その若者たちを放せ! 放さなけりゃ生命はもらったぞ!」
ロビンは、ちょっと待ったが、ついに二度目の矢を放った。矢は若者たちのそばにいた林務官の肩を射ぬいた。さらに三度目の矢が、そのそばの林務官を射殺した。こうなると、若者たちのそばにいれば、生命をすてることになることが、はっきりとわかった。
林務官たちは一人逃げ、二人逃げ、つづいてみんなが逃げ出した。この有様を見たウィルは、木(こ)かげからおどり出してきて、うれしそうに叫んだ。
「あ、逃げた、逃げた! だが、ロビン・フッド、おまえの弓はすごいぞ。さあ、おれは若者たちを助けてこよう。」
ウィルは、若者たちのところへ走ってゆき、短刀でそのしばってある綱を切った。ウィルはすぐまた走って帰り、若者たちもつづいて走ってきた。
救われた二人は、うれしがって、なんどもロビンにお礼を言った。
「それにしても、林務官たちが、よくもおまえたちを殺さなかったものだ。見つかり次第、射殺されるはずなのに。」
と、ウィルが言うと、二人のうちのがんじょうな体格をしたほうの男が答えた。
「長官から捕虜(とりこ)にしてつれてくるように、言いつかっていたからでさあ。おれはマッチという名まえだが、マッチは絞首台の上で、ノッティンガムの市場をながめるはずだったのを助かった。それは、ついぞこの森で見かけたこともない、りっぱな弓師(ゆみし)のおかげだよ。」
かれはそう言って、またロビンにおじぎした。
「さて、どこへ隠れるかね。林務官たちは、国じゅうの人をかりたてて、やってくるぞ。」
そういったのは、もう一人の若者であった。
「まったくだ、ロビンもこいよ。長官の部下(てした)につかまえられたら、たちまちお返しをくうぞ。」
ウィルの言葉に、ロビンはうなずいた。そこで、かれらは例の大きなかしの樹のところへ行った。すると、約束どおりウィルの父親が待っていた。かれは二人を奪い返してきた話を聞くと、首をふりながら言った。
「もうここらは、おれたちのいるところじゃない。林務官たちに、すこしでも反抗した者は、生命がなくなるんだ。おれは森のむこうの娘の家に隠れるが、ウィル、おまえはどうする?」
「おれは、この森に住むよ。とっつぁん、ロビンも謀反人だ。おれはロビンについてゆくよ。」
ロビンは、すこしはなれて、弓にもたれるようにして立っていた。謀反人! その言葉がひやりとかれの心にこたえた。そうだ、この二人の謀反人を助けた以上、謀反人と見なされる。そう考えると気持がしっかりした。ぐるりを見まわすと、美しい緑の森があり、日光を浴び、風にゆれている大きな枝がいくつもあった。かれはこの広い森のなかの、勇ましい自由な生活を思った。よかろう、謀反人として暮そうと思うと、心は晴れやかになった。
二人の謀反人たちが、ロビンとウィルとの道案内となり、二時間ほど足早に歩いたあげく、大きなかしの樹のある空地(あきち)へきて休んだ。マッチは、腰の角笛(つのぶえ)をとって静かに吹き鳴らした。すると、それに答える声が聞えたので、また進んでいった。わずか半マイルとゆかないうちに、また空地へきた。それは壁のような岩のすそに、厚く茂ったひいらぎや、はしばみを伐(き)り開いて作った空地で、ここへくると、
「だれだ?」
と、たずねられたが、マッチの声がわかったので、たずねた男が出てきた。男のうしろには、五、六人のたくましい男が、てんでに矢を弓につがえていた。それは仲間でない者や、敵を迎える時の用心した迎えかたであった。
ところが、仲間の二人が捕虜になったという知らせを聞いていたのに、今、目の前に、その二人が帰ってきたので、かれらはうれしがってよろこんだ。
「マッチとワットとが帰った! よかった、えらいぞ! だが山犬のきばみたいな林務官の手から、どうやってぬけ出してきたんだ?」
そこで、マッチがいった。
「聞いてくれ、おれはこのかたに助けられたんだ。それで仲間にはいってもらうために、つれてきたんだが、こんなすばらしい弓師は見たことがないよ。」
さて、その晩、謀反人たちは大たき火をかこんですわり、その日の獲物のしかをごちそうにして、ビールを飲みながら楽しい夕飯をたべたが、ふいに大声でマッチが叫んだ。
「おい仲間たち、ゆんべ、おれたちは頭(かしら)をえらぼうと話しあったが、あれはどうなった?」
すると、一人が答えた。
「えらんでみたら、おまえが頭(かしら)に当選したよ。」
マッチは首をふって、
「それなら、おれはもう頭じゃないよ。なぜなら、おれはきょう、御主人にあったんだからな。頭はロビン・フッドだ。」
と、言った。ワットも、つづいて、
「もしそれに不服なら、この小枝をお見舞いするぞ。」
と言って、ほんとは六尺[註:1尺は約30cm]もありそうな棒を、頭(あたま)の上でぶんぶんふりまわした。
けれど、背の高い、浅黒い男が、
「一番上手に弓をひく者が、頭になることに、半数の者がさんせいしたと思うんだが。」
と、不平そうに言った。
よし、それならば、あしたの朝、弓の射くらべをやろうということになり、その晩は、晩飯がすむとみんな、がいとうでからだをつつみ、たき火のまわりに寝ころんで眠ってしまった。
次の日の朝、かれらは日あたりのいい空地に、いつもかれらの使っている的(まと)を立てた。それを見たロビンは首を横にふった。
「あんな的じゃ射くらべにならない。だれだってあんな的なら射るから、五,六人の成功者ができてめんどうだ。一度でちゃんときまるような的を立てろ。」
「じゃ、おまえの手で的を立てろ。ロビン・フッド。」
と、ジョン・フォードが言った。かれはこれまで仲間のうちで、一番よく弓を射ると思われていたので、頭の地位を得ようとしているのだった。
「みんな異存がなければ、おれが的をつくる。」
と、ロビンが言うと、みんなは口々に、
「異存なし、的を立てろ。」と、言った。
そこで、ロビンは、葉のついた枝や草花を集めて、小さい花輪をつくり、ウィルに言いつけて、それを空地のむこうの端のかしの樹の枝につりさげさせた。
「さて、あの花輪のまんなかを、葉にも花にもさわらずに、矢を射とおせる人が、ほんとに弓をひく人だ。」
ロビンの、その言葉を聞いて、みんなはおどろいて顔を見あわすばかりであったが、やがて、ひとりの男が叫んだ。
「あれをねらうには、鷲(わし)の目玉がいるぞ。」
また、べつの男も叫んだ。
「おまけに、あんな遠くを射るには、馬みたいな力がいるぞ。」
こんどは、また、べつな男が叫んだ。
「おれはもうやめた。とても射られない。」
とどのつまり、ジョン・フォードだけが、射くらべをすることになり、ジョンとロビンとは、順番をきめるためにくじをひいた。そして、ジョンが先に射ることになった。
ジョンが最初に放った矢は、的から三十フィートばかり手前で地面に落ちた。かれはぶつぶつ何か言いながら、第二の矢を放った。けれど、それも届かなかった。第三の矢もおなじ結果におわった。かれはわめくように言った。
「おれはできるだけ強く矢を射たが、あんな妙な的ははじめてだ。生きている人間で、あの的を射る者はおそらくあるまい。」
その時、ロビンはにこっと笑って、前に進んで立った。かれは大きな弓をとりあげると、弓のなかにからだを入れこむように弦(つる)をひき、的をねらっていたが、まもなく矢はうなりをあげてとんだ。たちまち、みんなはおどろいて声をあげた。矢は花輪のまんなかを射ぬいて、かしの幹につっ立ち、小きざみにふるえていたからであった。ジョンが、大声で叫んだ。
「もう一度やれ、まぐれあたりかも知れない。三本とも射るんだ!」
ロビンは、すぐに答えた。
「いいとも!」
そこで、ロビンは、第二の矢をうったが、これも花輪のまんなかをくぐった。第三の矢もおなじことであった。
「頭は永久にロビン・フッドだ!」
と、みんなは叫んだ。
さっそく、みんなはこの若い頭に、忠誠の誓いを立てた。まっさきに誓いを立てたのは、ロビンに救われた、水車屋の息子のマッチと、それからワットであった。次はロビンのすばらしい弓の技に感服させられたジョン・フォード、その次はいっしょに森に逃げたウィル・スチュートリイ。それから、最後に、残りの者、全部であった。
みんなが忠誠の誓いをおわると、ロビンが叫んだ。
「さて、同志のかたがた、われわれがこれから守ってゆくべき法律について、おれのいうことを聞いてほしい。第一に、われわれとおなじサキソン人の、正当に土地を持つ者から奪いとった分捕品(ぶんどりひん)で裕福(ゆうふく)になった、かの非道なノルマン人たちに戦争をしかけるのだ。第二に、われわれは貧乏人をいじめてはならぬ。いや、それどころか、ノルマン人の警官や貴族や坊主どもから物品を奪い返して、それを貧乏人に与えて助けるのだ。第三に、女ならば、貧乏人でも金持でも、ノルマン人でもサキソン人でも、すべて一様(いちよう)に、われわれのことをおそれさせてはならぬ。この三つが、われわれの仲間の法律だ。」
みんなは、この法律に従うことを承知した。その時、腰の曲った小さい男が、がさがさ音を立てて木(こ)のまを歩いてきた。
「だれだ、そこへきたのは?」
と、ウィルが叫んだ。すると、マッチが答えた。
「あれは友人のロッブで、ノッティンガムで、くつなおしをやっている。おれたちのために町で見張りをしてくれてるのだが、ロッブは長官の部下(てした)の一人と懇意(こんい)なので、いろんな話を聞きこんで、おれたちの安全のために、前もって知らしてくれるのだ。」
まもなく、ロッブが近づいてくると、マッチは大声で言った。
「どうした、ロッブ? 何か知らせを持ってきてくれたのか?」
ロッブは、すぐに答えた。
「警戒しろよ。長官は、林務官のなかの強いやつをひきぬいて、その一隊をおまえたちにさしむけようとしているぞ。長官は、とても怒っているんだ。きのう殺された三人の部下に対して必ず謀反人の首を三つとると言っている。だが、長官はおれの今まで聞いたことのないロバート・ヒッズースあるいはロビン・フッドという名まえの男のことを一番怒って、その男をつかまえるか、その男の首をとってきた者には、だれでも銀貨三百枚の懸賞金(けんしょうきん)をやると言っている。」
それを聞いて、マッチが叫んだ。
「たいした懸賞金だ! それで見ても、長官が、頭につけている価値(ねうち)がわかるよ。ねえ、頭?」
ロビンは、うなずいたが返事をしなかった。かれはじぶんに懸賞金がかけられたことによって、はっきりとじぶんが法律を破ったことを感じた。マッチは、弓を高くさしあげて叫んだ。
「万歳! おれたちの愛する森、勇ましい頭ロビン・フッド。弓の達人で、謀反人の頭になったロビン・フッド、万歳!」
ほかの連中も、いっしょに万歳をとなえた。ロビンの目はかがやき、顔ははれやかになった。かれは謀反人となった。けれど、かれには広い森がある。助けてくれる仲間がある。国じゅうのノルマン人の警官たちなんか、すこしもおそろしくはなかった。