第百六十七段 ― 2023年03月12日
なお、映画『海底軍艦』などに登場する主役メカの名称は「轟天号」だが、押川春浪の小説では「電光艇」である。
・追記。
この名は「電光影裏斬春風(でんこうえいりにしゅんぷうをきる)」と言う言葉に由来する。
・追記の追記(19日)。
『吾輩は猫である』九章より。
迷亭と苦沙彌先生の会話。
(前略)
「此間(このあひだ)来た時禅宗坊主の寝言見た様(やう)な事を何か云つてつたらう」
「うん電光影裏に春風をきるとか云ふ句を教へて行つたよ」
「其(その)電光さ。あれが十年前からの御箱(おはこ)なんだから可笑いよ。無覚禅師(むかくぜんじ)の電光ときたら寄宿舎中誰も知らないものはない位だつた。夫(それ)に先生時々せき込むと間違へて電光影裏を逆さまに春風影裏に電光をきると云ふから面白い。今度ためして見玉へ。向うで落ち付き払つて述べたてゝ居る所を、こつちで色々反対するんだね。するとすぐ顛倒して妙な事を云ふよ」
「君の様ないたづらものに逢つちや叶はない」
(後略)
同 十一章より。
迷亭と八木独仙の、烏鷺を戦わせながらの会話。
(前略)
「君は最初から負けても構はない流(りう)ぢやないか」
「僕は負けても構はないが、君には勝たしたくない」
「飛んだ悟道だ。相変らず春風影裏に電光をきつてるね」
「春風影裏ぢやない、電光影裏だよ。君のは逆(さかさ)だ」
「ハヽヽヽもう大抵逆(さ)かになつていゝ時分だと思つたら、矢張り慥(たし)かな所があるね。それぢや仕方がないあきらめるかな」
「生死事大(しやうしじだい)、無常迅速、あきらめるさ」
「アーメン」と迷亭先生は今度は丸で関係のない方面へぴしやりと一石を下した。
(後略)