『イソップ寓話』より。2022年06月30日

『伊曾保物語』より「蛙と牛との事」

 ある川の辺に、牛一疋、こゝかしこ、餌食を求め行き侍りしに、蛙、これを見て心に思ふやう、「我が身を膨しなば、あの牛の勢ほどになりなん」と思ひて、きつと伸び上がり、身の皮を膨らして、子どもに向つて、「今は、この牛の勢ほどなりや」と尋ねければ、子供、嘲笑つて云はく、「未だその位なし。憚りながら、御辺は牛に似給はず。正しく蕪の形にこそ見え侍りけれ。御皮の縮みたる所侍る程に、今少し膨れさせ給はゞ、あの牛の勢になり給ひなん」と申しければ、蛙答へて申さく、「それこそ、やすき事なれ」といひて、力及び、「えいやつ」と身を膨らしければ、思ひのほかに、皮、俄に破れて腸出で、空しくなりにけり。
 その如く、及ばざる才智位を望む人は、望む事を得ず、終に己れが思ひ故に、我が身をほろぼす事あるなり。

・蛙(かひる)と牛の話 渡辺温訳

或日牛沢畔(さはべ)に出て草を食(は)み。あちこちあるきけるとき。蛙児(こがひる)の一群(ひとむれ)になつてゐるのを思はず踏潰すと。其内の一疋が危き場を逃れ。蛙母(はゝ)の許へ注進して。「ヤア阿嬢(おつかさん)。それはマア四足(よツつあし)のある大な獣(けだもの)だが。それが同気(みんな)をふみつぶしました」といへば。蛙母(はゝがひる)驚いて。「ヱ。大きかつたか。それはどんなに大かつた」といひながら。自分が満気(ふく)れあがり。「こんなに大かつたか」ととへば。こかひる「それ処じやァ御坐りません。もつと大(おほき)う御坐りました。はゝ「ヨシ。夫はそんなに大かつたか」といひながら、ぐつと興張(ふくれ)あがると。蛙児(こがひる)が仰(あほ)むいて見て。「イヤァ阿嬢(おつかさん)。中々半分にも及(おつつき)ませぬ」といふゆゑ。蛙母(はゝがひる)「夫じやァ此様(かう)か」と勢(せい)一ぱい息張(いきば)ると。腹が裂(やぶ)れて死(しに)けるとぞ

  己(おの)が及びもせぬ巨大(たいそう)な事を仕様(しやう)とすると、多くは自滅するものじや



・同じ原話の別ヴァージョン。プレイヤーが異なるので「alternate take」とは言わない。

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