年を取った獅子 イソップ2022年08月13日

年を取った獅子 イソップ 楠山正雄訳

 獅子が年をとって、もう自分の力で獲物を捕まえる力がなくなったので、狡猾にも坐っていて獲物を釣る工夫を考え出した。それは、自分は洞穴(ほらあな)の中に引籠(ひきこも)って、病気のふりをして寝ている、そして誰でも外(ほか)の動物が、病気の見舞いにと云って中へ入ってくる奴を捕まえては食べてしまうのだ。こういう手段にかかって、幾頭となく獅子のために命を落すものができたが、ある日のことである。一匹の狐がこの洞窟(ほらあな)を訪問したとき、どうも様子がおかしいと思って、わざと外(そと)から声をかけて御機嫌は如何(いかが)とたずねた。獅子は、どうもひどくいやな気分だと云って、
「でも」
と言葉を改め、
「なんだって君は外に立っているのだ。まあ中へ入ってくれたまえ。」
というと、
「それはそうしたいのですが」
と、狐は答えた。
「どうもここの足跡がみんな洞(ほら)の中へ向ったものばかりで洞の外へ出た物が一つも見当りませんからなあ」
と云った。



・いわゆる探偵小説(detective story)の原型と言われる物語(story)の一つ。

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