第百二十二段 ― 2022年07月14日
最近知ったこと。
・自転車が公道を走る条件。
「スタンドは無くても構わないが、ブレーキは前後輪とも必要」
近所の百円ショップの駐輪場で、二人の小学生がスタンドが附いてない自転車をいじっていた。
「何故スタンドが無いのか」と訊くと「BMX用だからスタンドは不要」との事。「それで公道を走れるのか」と問いを重ねると「ブレーキがあれば問題ない。但し両輪とも」との答。
ナウいアイテムやツールに関してはナウいヤングに訊くのが最善とは思っていたが(小学生が「ナウいヤング」である事は否定出来まい)、まさか小学生から道交法に関して教わるとは思わなかった。学びの機会は何処にでもあるものである。
……え? 「『百円ショップ』じゃ無くて『ひゃっきん』」?
…………内田さんちの?
それにしても、こう湿度や温度が変化しては、牛皮手締めティンパニ(単数形は「ティンパノ」)・プレイヤーは大変だ。
・追記。
やっぱりシンプルな構造体(生命体)の方が変化が手易い。
・蛇足(15日)。
手塚が「円形」に拘泥したのも、それが一因かも知れない(個人的な妄想)。
1)静止画でも可愛い(基本的に哺乳類の本能に訴える)。2
2》動画にした時に、動かすのが容易。
金毛の羊皮 4 ― 2022年07月14日
(四) 片方だけの沓
ヤソンがイオルコスの市(まち)へ入った時には、市はお祭のような騒ぎで、立派に着飾った男女が、方々に群がっていた。そして今市へ入って来る青年の立派な体格と、異様な姿に目を留(と)めて、互いに何か囁き合っていた。ヤソンはやがて市場の前まで進んで、群衆の一人に人々の集まっている訳を尋ねた。するとその人は、海岸に寄った広場の方を指さして、こう言った。
「今日はペリヤス王が、海神ポサイドンに犠牲を献げるというので、こうして国中の人民を召集したのです。それあすこの祭壇の下に、王の立っているのが見えるでしょう。」
こう言っているうちに、王は早くもヤソンの異様な姿に目をつけて、こちらをじっと見詰めていた。その肩からかけた豹の皮、その皮の上へ長く靡(なび)いた金髪、それから両手に突いた二本の長い槍――そうした様子が、一目(ひとめ)見て遠国(えんごく)から来た者と分った。併(しか)し群衆の目は、豹の皮や二本の槍よりも、この不思議な青年の足元にばかり集まっているように思われた。
ヤソンは何か気が引けるような心持ちがして、そっと自分の足へ目をやった。片方の足には、父から譲られた黄金(きん)の飾りのついた沓(くつ)をはいていたが、片方の沓は、先刻河の中で水に流されたまま、素足で此処(ここ)まで歩いて来た。
「おい、見たか? 片方しか沓をはいていないぜ!」
と囁く声が耳へ入って来た。人々の目はいよいよ自分の足元にばかり集まって来る。
「片方の沓! 片方の沓! 片方だけの沓をはいた人が来たぞ。とうとうやって来た!」
と言う囁きが、あっちこっちから聞えて来た。そのうちに一人の老人が、ヤソンを呼び留(と)めて、こう尋ねた。
「お若い方、あなたは何処から来なすった? 何の用でこの市(まち)へは来なすったのかね?」
「私はヤソンと言って、カイロンの洞窟(いわや)から、父の領地を受取りに来た者です。」と青年は臆(おく)した風もなく答えた。
「兄さん、お前はまだドドナの神託を知りなさらないのだね?」と老人は心配そうに言った。「片方だけの沓をはいて、平気で市へ入って来るとは、どうしたものだ。」
「どういう神託があるか知りませんが、片方の沓は先刻河を越す時に流してしまったので、この通り片方だけで此処(ここ)まで歩いて来たのです。」
すると老人は一寸仲間の方を振り返って、人々の顔色を窺(うかが)った後(のち)、ヤソンに向って言った。
「あなたが何も知らずに破滅の淵へ跳び込んで行くのがお気の毒だから、お話をするが、数年前ペリヤス王が、ドドナの神木(しんぼく)に伺いを立てた時に、『片方の沓をはいた人が来て、ペリヤスの王位を奪う。』という神託があったのです。それで両方の沓をしっかりと足へ結びつけた者でなくては、この市へは入(い)れない、というお布令(ふれ)が出たのです。そして王宮には人民の沓を調べる役人が置かれて、切れかかった沓をはいている者には、新しい沓と取り替えて下さる規則になりました。ですからあなたがそんな風にして王の前へ出たら、どんな事になるか分りません。」
この話を聞くと、ヤソンはからからと笑った。
「それはいいことを教えて下すった。」と老人を見て答えた。「そういう神託がある上は、私の望みはもう叶ったも同じことだ。」
こう言い捨てて、青年は群衆をかき分けて、大跨(おおまた)に祭壇の方へ進んで行った。
その時王は片手に鋭い短剣を抜き放(はな)って、犠牲の黒牛(くろうし)を殺そうとしていたが、群衆の囁く声を聞きつけて、大跨に進んで来る青年の方へ目を移した。そしてその足元へ目を落した時に、王はぎょっとして思わず短剣を握りしめた。けれどもヤソンが大胆に近寄って来るのを見ると、老巧な王は急に態度を変じて、言葉を和(やわ)らげて問いかけた。
「お前さんは何処の者か? その様子で見ると、大分(だいぶ)遠方から来られたようだが、まあ何しろよくわしの国へ来て呉れました。お前さんの名を聞かして下さい。」
「私はアイソンの子のヤソンです。」と青年は王の顔を見詰めながら答えた。「あなたが父の手から奪った王位を取り返す為に、ペリオン山から出て来たのです。さあ、大神(おおがみ)ゼウスからアイオロスの子孫に伝えられたイオルコスの王位を私にお返しなさい!」
これを聞くと、ペリヤスは両手を空へ上げ、涙を流して、自分の甥を送って呉れた事を天に向って感謝した。そして祭を終るや否や、ヤソンを連れて王宮へ帰り、一族の者といっしょに、今日の饗宴に招待した。