日本国憲法第二三条 他2022年08月04日

第二三条 学問の自由は、これを保障する。

第二五条 ① すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

第二六条 ① すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
② すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。



・「義務教育」とは、保護者にとっての「義務」であり、子供にとっては「権利」であると言う点にご注意。あと「その能力に応じて」と言う点にも。
これは「教育」に関しての事で、物理的な「学校」と言う建造物(及びシステム)に関しては何も触れていない。

金毛の羊皮 132022年08月04日

(一三) 森の獲物

 ギリシャの勇士らは一同船へ引上げて、評議に時を移していると、メデアは忍び足に岸を下って来た。
「私も、あなた方も、死なねばならぬ時が来ました。」と王女は息を喘(はず)ませながら言った。「私があなた方に助力したことを父に覚(さと)られました。父は沢山の武士を集めて、あなた方を襲撃する用意をしております。夜が明けたら、私も、あなた方も、生命はありません。ですから、若(も)しあの羊皮を手に入れようと思ったら、今宵のうちです。直ぐに行って羊皮を取って、夜の明けぬうちに逃げて下さい! 森へは私が御案内します。」
 こう言ってしまうと、メデアはもう先へ立って歩き出した。ヤソンは引かれるようにその後へついて行った。堤へ上ると其処にはメデアの弟のアブシルトスが、当歳の子羊を連れて待っていたが、メデアは無言のまま、ヤソンと弟の先へ立って、アレスの森へ進んで行った。やがて三人は城壁の下へ着くと、メデアは子羊を殺して、側(かたわ)らの溝の中へ置き、その上へ魔術に使う何かの薬草を蒔(ま)いて、草の中へ身を潜めていた。
 すると、忽(たちま)ち城壁の下から、把火(たいまつ)を振りかざした魔女の姿が現れたが、いきなり溝の中へ跳込(とびこ)んで、子羊を引裂(ひきさ)いて食ってしまうと、再び城壁の中へ消えてしまった。その時城門の閂(かんぬき)は一時に落ちて、黄銅の扉がぱっと開いたので、メデアはヤソンを案内して森の奥へ踏込(ふみこ)んで行った。其処には年経(としへ)た山毛欅(ぶな)の大木の幹に、金毛の羊皮が、夜目(よめ)にも金色(こんじき)の光を放っていたが、その根元(ねもと)には、松の大木ほどもある毒竜(どくりゅう)が、嵐のような唸り声を立てながら、頭を擡(もた)げて、じっと此方(こちら)を見張っていた。
 けれどもメデアが、竜の側(そば)へ進み寄って、小声に何か唄いながら、何かの魔薬(まやく)をその頭へ振りかけると、唸り声はだんだんやんで、竜はぐったりと頭を垂れ、だるそうに眼を閉(つぶ)って、すやすやと眠ってしまった。之(これ)を見たヤソンは、急いで竜の体を乗り越えて、金毛の羊皮に近づき、木の幹から引離すや否や、高く両手に捧げながら、先へ立って森の外へ出た。
 その時メデアは、後(うしろ)からヤソンを呼留(よびと)めて言った。
「では出来るだけ急いで海の方へお逃げなさい! そしてお国へお帰りになっても、折々(おりおり)は憐れなメデアの事を思い出して下さい!」
「いいえ、あなたを死なしては、我々の面目が立たない!」とヤソンが言った。「羊皮を手に入れたのは、全くあなたのお蔭です。さア、あなたも我々と一緒にこの国をお逃げなさい! そして私の妻になって、イオルコスへ来て下さい! 私は同時に二つの宝物を持ち帰って、故郷の人々を羨ましがらせてやりたい。ね、いいでしょう?」
 こう言ってヤソンはメデアの手を堅く握った。メデアは何とも答えなかったが、執(と)られた手を振り離そうともせず、引かれるままについて行く。アブシルトスも姉の行方を気遣いながら、二人の後からついて行った。
 ファシス河の岸では、アルゴー艦はもう出発の準備を整え、勇士らは橈(かい)を握って、ヤソンの帰るのを待っていた。其処へヤソンは金毛の羊皮を高くさし上げながら、勇み立って帰って来たので、一同は思わず歓呼の声を揚げた。ヤソンはメデアとアブシルトスの手を執って船へ乗ると、戦利品を帆柱(ほばしら)へ掛けて、直ぐに出発の命(めい)を伝えた。
 その時には東の空はもうほのかに白みかけていたが、勇士らの力を籠めた橈(かい)の音は、河の面(おもて)に唸りを立てて、露を含んだ闇の下を、船は矢のように下って行った。その時オルフェウスは竪琴を執って、勇ましい凱歌をうたい出すと、「アルゴー」はその妙音に唆(そそ)られて、船体を上下に揺(ゆる)がしながら、奔馬(ほんば)のように白浪(しらなみ)を跳び越えて、海の方へ乗出して行った。