第五段2021年09月08日

"All art constantly aspires towards the condition of music."
「すべての芸術は音楽たらんと冀う」(試訳)
――『ルネサンス』ウォルター・ペイター。

・和製紋切型辞典(私家版・試作中・順不同)

【キー(key)】調。鍵盤(keyboard)の盤(board)では無い方。一般的に、キーそのものに高低の概念は無いが、主に増四度(減五度)近辺を目安として、しばしば「音域、声域(range)」の代替語として用いられる。
【ピッチ(pitch)】音の高さ。音高。意識的に上げたり下げたり、無意識的に上がったり下がったりする。
【メートル(metre 仏)】SI基本単位の一つ。光が真空中を2億9979万2458分の1秒間に進む長さ。無論、上下しない。
【移調(transposition)】楽曲全体を別の調に平行移動すること。瞬間移動(teleportation)では無い。が、必要に迫られて瞬時に移調せねばならぬ場合もある。
基本的な移調の例




【転調(modulation)】楽曲の途中で調を変えること。著名な例としてミッチ・ミラー合唱団(Mitch Miller and the Gang)の歌う、映画『史上最大の作戦(The Longest Day)』(1962年)主題歌(作詞・作曲ポール・アンカ Paul Anka)がある。この曲の場合、ハ長調(C major)で始まり長三度下の変イ長調(A♭ major)に転調して終る。別の著名な例では、TV西部劇『ローハイド(Rawhide)』(1959年-1965年)主題歌(作詞:ネッド・ワシントン Ned Washington、作曲:ディミトリ・ティオムキン Dimitri Tiomkin、歌:フランキー・レイン Frankie Laine)のレコード・ヴァージョンがある。この場合、1コーラス目はホ短調(E minor)で、2コーラス目は短二度上のヘ短調(F minor)に転調する。え、どちらの曲もご存じない? こりゃまた失礼しました。ナウいヤングにマッチする楽曲を挙げると、TV特撮ドラマ『ウルトラマンタロウ』主題歌(作詞:阿久悠、作曲:小林亜星、歌:武村太郎・少年少女合唱団みずうみ)の場合、コーラス部の構成自体がヘ短調→ヘ長調という同主調に転調する。このパターンは日本のTV番組曲に多く、作曲者自身TVアニメ『科学忍者隊ガッチャマン』主題歌(歌:子門真人、コロムビアゆりかご会)で、ハ短調→ハ長調という同主調転調を用いている。え、こちらの両曲もご存じない? あ、そう。
【変調(modulation)】ウィキペディアに依れば「電気通信において、基本信号(搬送波)に対して、その振幅、周波数、位相などを変化させること」だそうである。あまりこういう慣れない事を考えると体調に変調を来すおそれがある。
【絶体温感(absolute body temperature feelin')】摂氏マイナス273.15(華氏マイナス459.67)度に於ける体感温度。水木しげるに依れば、悪魔メフィストフェレスは周囲をこの温度にする魔力を有している。ゲーテに依れば、19世紀頃までは彼(?)にこの能力は無かったようだが、20世紀になって悪魔も進化したらしい(『The Voyage of the Space Beagle』A. E. van Vogt, 1950年)。
【打弦楽器(struck string instrument)】張られた弦を打つことにより楽音「など」を発する楽器。ツィンバロン、ダルシマー、ピアノ、サントゥール、エトセトラ。→【撥弦楽器】【擦弦楽器】を参照。
【弦打楽器(percussion with strings)】弦のある打楽器。でんでん太鼓など。
【全音音階(wholetone scale)】TVアニメ『鉄腕アトム』(第1作)主題歌(作詞:谷川俊太郎、作曲:高井達雄)の序奏部(introduction)。「全音階(diatonic scale)」とは異なる。
【半音階(chromatic scale)】TVアニメ『鉄腕アトム』(第1作)主題歌のコーラス部(リフレイン部)で、1小節目から2小節目(4/4拍子の場合)の「を越えて=ミファ[ファ#]ソ」の所。なお、階名表記は移動ド。
【ブルー・ノート(blue note)】TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(第1作)の主題歌(作詞:水木しげる、作曲:いずみたく)の「ゲッ・ゲッ・ゲゲゲのゲ~」の最後の「ゲ」の音。全音階(diatonic scale)のうち、全音階的音程(diatonic intervals)を四分音(quarter tone)から半音(semitone)ほどズラした音。どの音をどれくらいズラすかは、経験則に依る基準(のようなもの)もあるが、最終的にはカラスの…もとい、個人の勝手である。
【ブルース(blues)】より発音に近く表記すれば「ブルーズ」(複数形を表す「s」の前が無声音では無いため)。基本的に12小節を1コーラスとした楽曲。代表曲に、『Rock Around the Clock』、TVアニメ『ひみつのアッコちゃん』(第1作)エンディング・テーマ『好き好きソング』(作詞:井上ひさし・山元護久、作曲:小林亜星)などがある。
おそらく最も基本的なコード進行は以下のとおり。

|I7|I7(or IV7)|I7|I7|
|IV7|IV7|I7|I7|
|V7|IV7|I7|I7|

必ずしも「ブルー・ノート」「ブルーズ・スケール」を使用するとは限らず、ペンタトニック・スケールのみの「ご陽気ブルーズ」なんてものもある。
なお、上記12小節のうち、8小節目と9小節目の間に無理矢理4小節挿入して「16小節1コーラス」とした変態ブルーズも存在する(『Stolen Moments』)。作曲者のオリヴァー・ネルソン(Oliver Nelson)自身が変態かどうかは不明であるが、筆者もその辺りのことはあまり追究されたく……いや、その、したくはない。
【クラリネット(clarinet)】フローベール(Gustave Flaubert、1821年-1880年)の『紋切型辞典』(Dictionnaire des idees recues)を参照。
【眼鏡】視覚障碍者のための補助器具。映画『十二人の怒れる男(12 Angry Men)』(1957年、米)を参照。
【厚い】概ね「ミソソ」くらい(移動ド)。
【熱い、暑い】概ね「ミソミ」くらい(同上)。
【拝啓】概ね「ソミミミ」くらい(同上)。
【背景】概ね「ミソソソ」くらい(同(以下略))。
【エリック・ドルフィー(Eric Dolphy)】「音楽は聴き終われば虚空へと消え、二度と取り戻すことはできない」という言葉を「録音」した。その言葉のわりに「レコーディング」が多い、なんだかよくわからないプレイヤー。